第8回目 負債とは?

 

これまでは、会社が保有する資産に目を向けていました。すぐに現金化できる資産がどれだけあるかは、会社の短期の体力をはかる重要な目安であり、「つぶれ」易い会社かどうかを判断するためには大変重要な情報となります。では、負債についてはどうでしょうか。資産については含み益だの、不良債権化した資産だのと話題はつきませんが、負債についてはあまり話題になりません。そこで、今回からは何度かに分けて、負債とは実はどのようなものであるのかを、じっくり考えてみましょう。

 

1.貸借対照表上の負債

 収支適合性について解説した際、貸借対照表上の負債は、流動負債と固定負債に分類されて記載されていると説明しました。単純に考えれば、決算書の貸借対照表上にある流動負債と固定負債の合計金額(貸借対照表上の負債総額)が、その会社が負っている支払いまたは返済を要する金額の総額であると理解するのが自然でしょう。支払いまたは返済を要する額が確定していれば、とにかく資産総額がその額を上まわっているかどうかを把握すれば、その会社のある程度の安全性は評価できるはずです。企業会計制度上でも、貸借対照表上に記載されている負債の額に相当する額の資産が、法的また経済的にも拘束されるとしています。

 企業会計制度上の負債には、法的債務だけでなく法的債務以外の負債も含まれています。支払手形や買掛金、借入金などの確定債務(その会社が負うべき負債であることや、義務額が額定している)や、製品保証引当金、売上割戻引当金、賞与引当金や退職給与引当金などのような法律によって具体的に規定されている引当金が法的債務に含まれます。これに対し、法的債務ではないが会計上は負債として計上されているものもあります。これには、修繕引当金、売上割戻引当金、返品調整引当金などが含まれます。

 そこで、確定債務については、何ら疑問を挟む余地はありませんが、引当金については、どうも納得がいかないという意見も聞かれます。まず、どうして法的債務ではない引当金が計上されるのでしょうか。またそもそも引当金とはどのようなものなのでしょうか。企業会計原則の注解18では、(1)将来の特定の費用または損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、(2)発生の可能性が高く、(3)かつ、その金額を合理的に見積ることができる場合という3つの条件を満たす場合に、引当金を計上しなければならないとしています。つまり、法的債務であるか否かではなく、上記の条件を満たすかどうかが問題となるわけです。しかし、注意しなければならない点は引当金の額は合理的に見積ってはいるとしても、それは確定額ではないということ、また発生の可能性が高いとはいっても、必ず発生すると保証されているわけではないという点です。つまり、引当金の計上に関しては、一定の予測と実績をもとに額が決定されているため、予測との差異が発生することは否めないのです。さらには、発生の可能性の判断も、会社側に委ねられているため、会社側で発生の可能性は高くないと判断されれば、しかるべき引当金は計上されないことになるわけです。

 

2. 適法と適正

 では、適正に引当金が計上されていれば、会社が負っている経済的負担額は財務諸表上に全て計上されているといえるのでしょうか。ここで、法形式上ではなく実質的な会社の負債とはどのようなものであるかについて考えてみたいと思います。「つぶれる」会社かどうかを評価、判断する場合に、決算書上の会計数値だけに盲目的になることは危険だと以前に述べました。提供された決算書が正しく法形式に則て記載されていれば、それでその会社の姿が全て決算書上に現われていると思うことには賛成しかねます。適法であっても、必ずしも適正であるとは言えないからです。しかし、こう書くと公認会計士の方から御叱りを受けるかもしれません。会社の会計処理に関して監査、指導をしている公認会計士は、法に則て処理されている財務諸表(決算書)は適正な処理がなされた財務諸表であるとして御墨付きを与えているからです。

 しかし、現行の制度で適法な処理であっても、それは将来に渡って永久的に適法なわけではありません。法律が改訂になれば、昨日まで適法であった処理が、適法ではなくなってしまうのです。法律は万全ではありません。現行の制度は、制定された時点で最も合理的であり、かつ最適な処理であると判断されて制定されたに過ぎず、社会環境が変化する過程で、現行の規定そのものが実質的な企業の姿からかけ離れたものになっていってしまうことも、いくらでもあり得るのです。

 

3. 財務諸表に現れない負債

 企業会計原則注解18の最後に、「発生の可能性の低い偶発事象に係る費用又は損失については、引当金を計上することはできない。」という記載があります。ここでいう偶発事象とは、発生の可能性ははっきりしないが、発生すれば費用や損失を伴う事がらを意味しています。そこで問題は、この偶発事象の取扱いにあるのです。この注解の文面から、発生の可能性の高い偶発事象であれば、それに係るであろう費用や損失は引当金を計上をすることができることが読み取れます。債務保証損失引当金などがこれに当たります。しかし、実際にはこれらの偶発事象については、その発生可能性や兆候を外部の者が読み取ることは不可能に近いため、会社側もあえて積極的に引当計上して、偶発事象の存在を外部に知らしめようとすることはあまりないようです。したがって、ほとんどの偶発事象の存在が貸借対照表上には現われてこないこととなり、外部者がその存在を知るころには、会社自体が二進も三進もいかない状態となっているというケースが最近よく見られます。

 偶発事象には、債務の保証、割引手形、裏書手形、引渡済の請負作業に対する保証、売渡済商品等に対する各種の保証(これにはPLも含まれます)、係争事件に係る賠償義務、先物売買契約、受注契約、長期購入売却契約、担保権の不確実性、税額の更正の可能性や政府の規制の可能性など、さまざまなものが考えられます。

 実は、最近の上場企業の倒産のケースを見ると、この偶発事象に起因する破綻が多くの割合を占めているのです。そこで、次回からはこの偶発事象についてもう少し掘り下げて考えてみることにしましょう。