第6回目 経営者が握る会社の余力

 

 前回まで3回にわたって会社の体力とは、という話を述べました。体力とは支払能力を意味するということ。体力を測るためには会計の数値を読む必要があること。しかし、会計の数値から真の体力を測るには限界があることなどについて説明しました。全ての資産を現金や預金のみで保有している会社であれば、その体力についてある程度は客観的に判断することも可能でしょう。ところが実際の取引は売掛でなされたり、また代金は現金ではなく手形で支払われたりしているわけですから、なかなか外部者が公正にその会社の体力を評価することは難しいのです。このようなことから、流動比率に代表されるような財務比率は、参考にすることは出来ますが、盲目的に信じることは危険であると警告しました。

 高額の保険契約を獲得することも重要ですが、それとて保険料を回収して始めて成立するものであり、苦労して契約は取ったものの保険料の支払が滞るのでは意味がありません。取引は代金を回収して初めて完了するものであり、代金回収に苦労する契約や販売は、その回収に関わる物的、人的費用を考えると、ないほうがましだともいえると思います。あたり前のことですが、保険料を回収できる健全な契約を取ることが重要であり、契約金額の大小に惑わされてはなりません。

 

1 保守的な見積りの重要性

 契約先や取引先の体力に不安を感じたら、その会社に資金的余力がどの程度あるかを調べるとよいでしょう。無論、これとてそう簡単に判断できるものではありません。また、このような調査、分析に時間を費やすことは、時として無駄のようにも思えます。しかし、もし契約先や販売先が「つぶれる」ような事態に陥れば、それこそ元も子もありません。契約や販売を急ぐことなく、情報を入手し自分なりに取引先や契約先の安全性を分析する努力だけは惜しまないで下さい。

 まず、会計数値から現金預金の合計金額と流動負債の総額を比べます。その割合いが100%を下回っている、もしくは上回っていてもその程度がわずかなら、その他に支払を担保するものがないかを調べます。通常は受取手形や売掛金などその他の流動資産をも含めた金額と流動負債を比較しますが、ここでは流動資産のうちでも現金預金のみと比較します。これは、決算書に記載された会計数値は決算日付けの数値であって、翌期中の財務内容を保証するものではないこと、支払のタイミングについては決算書から読み取ることはできないことなどから、なるべく保守的に見積ることが望ましいと考えるからです。ただし、掛売りの多い会社(だいたいの会社はそうでしょう)では、流動負債に対する現金預金の割合いが100%以上となることはあまりないでしょう。

 

会社の余力は経営者が左右する?

 では、会社の余力の評価方法について考えてみましょう。まず、余力は数値だけで評価することは難しいということを覚えておいて下さい。会社が「つぶれる」要因のほとんどは「人」にあると言われています。これは、同じような事業規模、同じような売上高の会社であっても「つぶれる」会社と「つぶれない」会社があることが示しているように、経営者によっていざとなった時の判断が異なるからです。よく多額の住宅ローンを抱えて自己破産に陥る人がいます。ところが、人によっては自己破産に陥るぐらいなら、なぜもっと早い時点で住宅を手離さなかったのかと疑問に思う人もいるでしょう。少なくとも事前に何等かの手だては打てたはずです。そしてこれと同じことが会社についてもいえるのです。早い時点で不採算部門を切り捨てる、不良債権を処理しておくなどの見切りができる経営者もいれば、周囲の者が警告しても過去の業績にすがり正しい判断ができないまま会社を「つぶして」しまう経営者もいます。したがって、まずはこの経営者がどのようなタイプであるかを観察する必要があります。悲観的(堅実、心配性)であるか楽観的(羽振りがよく気前が良い)であるか、また数字を使って経営状態を常に客観的に把握しているかどんぶり勘定であるか、さらには思い切りの良いタイプか物に固守するタイプかは、時には運命の別れ道ともなるのです。会社の余力は経営者の性格から生まれるといっても過言ではないでしょう。

 

物的余力資産

 次に具体的な余力資産について考えてみましょう。これを大きく分けると物的資産と信用資産の2つに大別することができると思います。

 物的余力資産の代表的なものとしては、市場性のある有価証券やゴルフ会員権など、保有目的が長期、短期にかかわらず市場でいつでも換金可能な資産をあげることができます(これらの項目は貸借対照表に有価証券、ゴルフ会員権などとして記載されています)。固定資産に分類されている長期保有目的の投資資産であっても、いざとなれば市場ですぐに換金できるるものであれば、余力資産といえるということです。ただし、貸借対照表上の有価証券項目には、市場性のない有価証券も含まれている可能性がありますので、項目の全額を余力資金であると考えるのは危険です。また市場性のある有価証券は価格が変動するにもかかわらず、貸借対照表上にはその有価証券を購入した時点の価額のままで記載されていますから、貸借対照表上の金額が現在の換金価値ではないということも年頭に入れておかなければなりません(ただし、価額が低下した場合に、低下した金額で洗い換えてある場合もあります)。さらには、経営が逼迫している会社の場合、既にこれらの資産が何らかの負債の担保として供されている、もしくはすでに当期に入って売却されてしまっていることもあるかもしれません。したがってここでの見積りもなるべく保守的に行ない、数字を鵜呑みにすることのないように心掛けて下さい。

 では、もしこのような物的余力資産が貸借対照表上に見当たらない会社の場合、体力は限界と判断しなければならないのでしょうか。そうでもなさそうです。そこで次回は信用資産について考えてみましょう。