第3回 会社の体力 その1

 

 今回は会社の体力について考えてみようと思います。前回、会社が「つぶれる」という状態は、手持ち資金の不足によって事業継続が不可能となった状態をさすと説明しました。この手持ち資金の不足を未然に防ぐためには、会社に相応の体力を貯えておくことが必要です。人間でも、体力が十分にあれば多少の病気はすぐに直ってしまいますが、体力が衰えていると思わぬ重病に陥り、時には死に至ってしまうことすらあります。また、体力というものは、知らず知らずのうちに衰えているということもあります。自分では十分な体力があるつもりでもいても、ことが起ってみて初めて衰えた体力に気がつくということもあるでしょう。特にかつて有り余るほどの体力を誇っていた場合に、このような過信に陥りやすいものです。そしてこれは、会社の場合にもまったく同じことがいえるのです。会社の体力というものは、経常的活動をおこなう上での基盤となるものです。会社の体力はあればあったに超したことはなく、特に近年のようにめまぐるしく経済環境が変化する中では、会社自体の行く末を左右する大きな要素となることは間違いありません。では、会社の体力とはどのようなものなのでしょうか。

 まず、会社の体力としてもっとも評価しやすいものは、資本金額です。1991年4月の商法改正により法人企業の最低資本金制度が施行されました。本年の5月末までの猶予期間を経て、すべての有限会社、株式会社は商法の定める最低資本金(有限会社300万円、株式会社1,000万円)の基準をクリアしなければならなくなりました。つまり、本年6月1日現在でこの基準に達することができなかった会社は、すべて「みなし解散」となったわけです。しかし、ここでみなし解散となっても、事業が継続できなくなったわけではありません。実際有限会社、また株式会社から個人事業に切替え、取引先との契約を継続している場合もたくさんあります。だたし、大手企業によっては「株式会社」としか取引きをしないという企業もあり、最低資本金未達のためみなし解散となったことにより、このような大手取引先を失った会社も多くあるようです。なぜ、商法はこのような厳しい措置にでたのでしょうか。

 実は例年の負債総額1,000万円以上の倒産事例を分析すると、その70%以上(1994年度で73%、1995年度で71.1%(1))が資本金1,000万円未満の事業者(個人経営も含む)なのです。つまり数字の上からのみいえば、今後株式会社とだけ取引きをすれば、相手先の倒産確率はまさにこれまでの30%以下となるといえるのです。資本金額が多いからすなわち安定している、また体力が十分にあるとは決していえませんが、少なくとも一つの目安であることは間違ありません。バブル経済の最中(さなか)は、資本金額に代表される会社のストックよりも、売上高や収益率といったフローに大衆の目は注がれました。例え資本金額は小さくても、収益率さえ高ければ株価は上昇し、優良企業ともてはやされたのです。しかし、ひとたび経済が下降線をたどるようになると、それら資力の乏しい、つまり体力のない会社はもろに不況の影響を受けることとなりました。

 無論、会社に相応の体力があったとしても、インフローよりアウトフローの方が多い状態が長期的に続けば、いずれ会社は「つぶれて」てしまいます。このように、継続的に資金不足が続くような状態では、いくら体力があっても解決にはならないことは明白です。そのような場合は、経営内容自体について早期に抜本的改善をおこなうべきであり、体力以前の問題といえるでしょう。

 では、資本金額が多ければ、本当に手持ち資金の不足に陥ることを回避できるといえるのでしょうか。若い税務署の職員が税務調査に訪れて、「資本金を見せてください」と言ったという笑い話があります。残念ながら資本金は、すぐに目の前に揃えて置くことのできるものでもなければ、常にその金額が現金として手元にあるわけでもありません(無論、そのような会社もあるかもしれませんが)。資本金とは、企業が経済活動を営むための元本であって(実際これには、資本金の他に資本剰余金とよばれるものも含まれます)、実際の資金力をあらわすものではありません。したがって、資本金額が大きいということは、それだけ行っている経済活動の規模が大きいということは言えると思いますが、だから「つぶれにくい」会社であるとは言えません。経済活動の規模が大きくなれば、少額取引で発生するマイナスを吸収するだけの力があることは事実ですから、資本金額は小さいよりは大きい方がいざというときの持久力はあるといえるでしょう。

 資本金額が実際の資金力をあらわすものではないとすると、他にどのような情報に注目したらよいのでしょうか。企業の経済活動は、ほとんどが資本(資本金に利益剰余金=それまでの経済活動のもうけ分を加えたもの)だけではまかないきれず、他から借り入れた資金に大きく依存しています。この資本金に利益剰余金を加えた資本の部を自己資本と呼び、他から借り入れた資金(一般には負債と呼ばれています)を他人資本と呼んでいます。企業は自己資本と他人資本の両方を元手に経済活動を行っているのです。つまり、それらで社屋や機械、備品を整え、原材料などを仕入れて事業を行い、収益をあげているわけです。よく借金も財産のうちといいますが、借金もすべて保有する財産に化けているわけです。しかし、他から借り入れた資金である他人資本と資本金などのような自己資本には性質上の大きな相違点があります。なぜなら他人資本は必ず返済しなければならない義務があるもので、法的または経済的に拘束されているものだからです。したがって、基本的には資本金額の大きさだけでなく、他人資本と自己資本のバランスが会社の体力に大きな影響を与えています。他人資本と自己資本は、すべて会社の資産に転化されているわけですから、つまり現在会社が保有する資産のうち、いくらを借金でまかない、いくらを自分自身のお金でまかなっているかが問題になるわけです。いずれは返さなければならないお金でまかなっているより、自分自身のお金でまかなっている方が会社は安定しており、それだけ体力があるといえるでしょう。つまり金額の大小より、この割合に注目する必要があるのです。

 また、手持ち資金の不足を未然に防ぐことができる体力は、この資本金の割合だけでははかることはできません。それを理解するためには、これまでの話にさらに一歩進んで、総資本(他人資本と自己資本の合計)でまかなわれている会社の資産内容をさらに注意深く観察する必要があるのです。そこで会社の体力として、手持ち資金の不足を未然に防ぐことが出来る資産内容とはどうあるべきかについて、次回は具体的に考えてみます。

(1) 帝国データバンク調べ