15  (最終回) 会社が「つぶれ」たとき

 

さて、このシリーズも今回で最終回です。このシリーズを通し、少しでも皆さんに、取引先企業の安全性(危険性)についてチェックしてみようとする気持ちが起こってくだされば幸いだと思っています。特に注意していただきたいのは、1社もしくはわずか数社との契約によって、経営がまかなわれているような代理店の場合です。「うちは、店頭公開をしている大手xx建設と独占的に契約をしているから安泰だ」などと考えてはいませんか。もし、たった1社しかない取引先や契約先が「つぶれた」ら、あなた自身の代理店も「つぶれる」はめに陥ってしまうかもしれません。まず、日ごろから取引先や契約先の安全性についてのチェックを怠らないこと。そして、できれば、いくつかの契約先を確保し、いざとなったときのリスクに対応できる体制は整えておく必要があるでしょう。

 

会社が「つぶれる」とどうなるの?

  会社がつぶれることによって、どのような経済的損失が発生するのでしょうか。株主は、投下した資本が回収できなくなるでしょう。債権者は、債権の回収が困難となります。つぶれた会社に掛売をしていた会社は、代金が回収できなくなるかもしれません。つぶれた会社1社からのみ注文を受けていた会社は、自らも存続の危機に立たされることになるのです。また従業員は、職を失うだけでなく、退職金や給与の未払という事態に遭遇することになるかもしれません。日産生命の場合は、生保レディー3000人の営業職員は、契約を打ち切られました。職員も日産生命清算後いったんは全員解雇され、一部の人だけが新会社に再雇用されています。1社の破綻によって、大量の人が職を失いました。また、会社が「つぶれ」れば、国や地方自治体は税収を失ないますし、消費者は、その会社の商品や製品を入手できなくなってしまいます。保険会社が「つぶれ」れば、当初約束されていた保障が受けられないことにもなるでしょう。消費者が被る被害も無視できません。

 日産生命の例では、「保険契約者保護基金」から2000億円拠出されても、なお900億円の債務超過額が残ったため、契約時の予定利率が引き下げられ、その結果支給される年金額が当初の予定より大幅に削減されることとなりました。日産生命の契約件数は約1700万件、主力商品であった個人年金保険の契約者の中には銀行ローンを組んで一括払いしていた人もおり、ローン負担額が保障総額を上回る人も出ています。

 このように会社が「つぶれる」ことによって社会全体が被る経済的損失は膨大なものとなります。生命保険会社の場合、1社当たりの総資産額が数兆円から数十兆円あるにもかかわらず、保険基金からの資金援助額は上限が2000億円と決められていますから、もし今後他の生命保険会社が破綻することがあっても、救済といえるだけの十分な資金援助は期待できません。まして、一般の会社であれば、「つぶれた」後で第三者から救済をえられるということは、上場会社や、つぶれることによる社会的影響がよほど大きな会社以外はありえません。

 

2 絶対に大丈夫はありえない

 そこで、皆さんに、どのような会社でも「絶対に大丈夫」ということはありえない、ということを認識しておいていただきたいと思います。今回の日産生命の場合も、また京樽や鈴丹の場合も、突然「つぶれて」しまったのではないのです。日産生命の債務超過は数年前からだったことを日産生命の元社長は認めています。債務超過とは、債務の評価額の総計が、資産の評価額の総計を超過している状態のことであり、この状態はもうすでに会社が「つぶれて」いるのと同じ状態をさしています。つまり、数年前から「つぶれている」状態の保険会社が、新規に契約者を募っていたわけです。

 よく「おかしいと思いつつ、ずるずると...」という話を聞ききますが、「おかしい」と第三者が思うような状態は、ほとんどの場合破綻が近いと考えてよいでしょう。そこで、どのような場合でも(相手先がどのような優良企業であっても)、会計情報だけは入手しておきましょう。これも契約時や初めて取引を開始した時だけでなく、毎年定期的に入手し、債務超過に陥っていないか、安全性は確保されているかを入念にチェックする習慣を身につけていただきたいと思います。大きな取引をする相手先に、決算書などを要求することは、決して非常識なことでも相手を不愉快にさせることでもありません。もし、決算書の要求を拒むようなら、それだけで「あやしい」と言えるかもしれません。

 

 さて、最後になりましたので、筆者自身の経験談を少々書いてみたいと思います。自分の関係する会社が「つぶれる」とうい状況に最初に遭遇したのは約20年前です。土地を購入し、代金を全額支払ってから登記までの間に、土地を販売していた不動産会社が倒産してしまいました。つまり、土地は未登記のまま代金はそっくりとられてしまったのです。結局5年後に30万円ほど戻っただけでした。自分の会社の経営内容が悪いことを知りながら、新たに売買契約を結び代金を手に入れたこのケースは、今回の日産生命のケースにどこか似ているような気がします。さらに、その後別の土地を購入し家を新築しました。しかし、これも中間金を払った段階で建築業者が夜逃げ(無論、前の事件とは別の会社です)してしまいました。お金は3分の2まで払ってしまいましたので、残りは3分の1ですが、家の方は半分しか出来ておらず、壁すら出来ていませんでした。残額では、新たに工務店にお願いしても、残りを完成させることは出来ません。しかし、捨てる神あれば拾う神ありで、夜逃げした業者の下請をしていた大工さんが、「俺が何とかするから」とおっしゃって下さり、個人的なつてで他の職人さんを手配するだけでなく、その日から現場に泊まり込み、家が完成するまで全てを仕切って下さいました。しかも、中間マージン(業者分)がなくなった分、当初の予算よりかえって安く家を完成させることができたのです。

 その後、幸いこのような目にあうことは今のところありません。しかし、このような経験も多少は手伝って、支払先の経営内容を確実に把握出来ない場合は、多額の金額を預託することは避けるようになりました。したがって、保険は損害保険も疾病保険も外資系の掛け捨て保険のみに加入しています。また預金も、現在は外銀を主に利用しています。

 取引にしても契約にしても、やはり、最後は自己責任を問われることになります。将来起こりうるリスクは、皆さんの予想をはるかに超えたものかもしれません。そういった意味でも、皆さんにはこのシリーズの内容を十分に理解していただき、会社が「つぶれる」ことを身近な問題として捉えておいていただきたいと思います。