14回 わが国の企業倒産実態

 

 このシリーズでは、主に会社が「ぶつれる」際に見せる財務面での兆候について解説してきました。では、わが国では、実際にはどのぐらいの数の会社が毎年「つぶれて」いるのでしょうか。倒産した会社の統計数値でしたら毎月発表されています。しかし、残念ながら実際に「つぶれた」会社の統計数値はありません。これは、第一回目に説明したように、ここで倒産した会社といっているものの中には、実際には「つぶれて」いない和議や、会社更正法を適用された会社も含まれているからです。したがって、倒産以降も事業を継続している会社は数多くあります。つぶれたはず京樽のお店が、今でもお寿司を売り続けているのは、そのような理由によるのです。

 

1 わが国の倒産実態

 1996年度(1996年4月から1997年3月まで)において負債金額が1000万円以上の倒産件数は1万4859件、負債総額は9兆1896億2400万円にのぼっています。これは、前年度比で件数は1%減、負債総額では9.2%増でした。負債総額は、大型倒産が続くとおのずと増加します。昨年度は、ノンバンクの破綻などが続いたため、1件当たりの負債額が増加しました。しかし、件数だけみると、1991年に1万件を超えた後、ほぼ横這いを続けています。バルブ景気崩壊後、不景気が続き倒産件数が増えているように感じますが、実は1976年からバブル景気までの約11年間は、平均でも年1万8千件近くと、近年の水準よりはるかに多くの企業が倒産しているのです。その中でも1983年などは、2万841件と1964年に企業倒産統計が発表されるようになってから、最多件数を記録しています。

 実は、実際の倒産発生については、単純に件数だけを比較することによって、増減を判断することはできません。つまり、前年より倒産発生件数が増加したから、倒産確率が高まったとは言えないということです。会社が倒産する確率である倒産率は、税務申告されている会社の総数に対して、倒産が何件発生したかで算出します。この倒産率を比較しますと、1971年から1975年の間の5年平均が0.72%であったのに対して、1976年から1985年までの10年間では平均0.93%と高い率を示しています。その後1986年から1995年までの10年間の平均は、0.44%、1996年は0.48%でした。この数字をみてもわかる通り、近年の倒産率は、必ずしも高い水準とはいえません。しかもここ数年は、バブル期の0.26%(1989年)、0.23%(1990年)といった発生率を除けば、ほぼ0.45%から0.5%の間で推移しており、かなり安定しているといえます。さらに言えば、昨年度は阪神大震災の影響による倒産(169件)や、手形詐欺事件を起こしたニシキファイナンスの連鎖倒産(38件)、また商法改訂による最低資本金制度の猶予期間が1996年5月末で終了したことから、その時点で最低資本金に到達していなかった有限会社、株式会社がみなし解散(2024件)となったこと、不良債権がらみでノンバンクの倒産が続いたことなどによる特殊事情も含まれていますから、一般会社の倒産は実際にはもっと少なかったと思われます。

 

2 ベンチャーブームに潜む危険

一昨年より第二店頭市場が新たに設けられ、赤字企業でも広く一般から資金を調達できるようになりました。ビジネス誌では、店頭公開直前のベンチャー企業を盛んに紹介し、独自に将来性などのランキングを掲載するなど、「ベンチャーブーム」を盛りあげています。将来性のある企業に、広く資金調達の場を提供し、経済を活性化することは好ましいことと思います。しかし、一般から資金を調達し、やっと事業をスタートしたものの、事業が軌道にのる前に「つぶれて」しまうのでは、元も子もありません。1996年度のベンチャー企業倒産は40件と、前年度比で233.3%増となっています。しかも負債額が10億円以上の倒産が半分以上をしめ、大型倒産が目立っています。これに対し、倒産した会社の資本金規模は5000万円未満が42.5%と、中小規模の会社が多いのが特徴です。ほとんどは販売不振で倒産しており、技術はあっても販売力を持たないベンチャーの弱点をさらけ出す結果となっています。

また、1996年度は上場企業や一般店頭公開企業の倒産も目立ちました。上場企業では、日栄ファイナンス、京樽、雅叙園観光、五十嵐建設が倒産し、店頭公開企業では、オリンピックスポーツなど5件が倒産しました。しかも、これまでの上場企業、店頭公開企業の倒産では、会社更正法の適用を申請し、事業を継続するケースがほとんどでしたが、前述のうち京樽以外は、破産、整理、清算扱いとなっており、実質「つぶれて」しまっています。

 

3 駆け込み増資

   また、最低資本金制度ができたことにより、会社はある程度(株式会社は1000万円、有限会社は300万円)の資本規模をもたなければならなくなりまし。この最低資本金基準に満たなかった会社は、1991年4月から1996年5月末までの猶予期間の間に増資をおこない、資本金を基準まで引き上げなければなりませんでした。しかし、何とか資金を調達したものの、その後に倒産してしまった会社が1996年度では1854件にものぼっています。しかも、このうち55%以上の1022件が1996年に入ってから駆け込みで増資をおこなった会社でした。

 

 このように企業の倒産実態を数字で把握することも大切なことです。これらの数字は、新聞紙上で公表されるだけでなく、帝国データバンクなどの情報産業会社でも提供しています。個別の企業を評価する際には、社会全体の動きにも目を向けておく必要があるでしょう。

 

注:倒産データは帝国データバンク『全国企業倒産集計』より引用