13回 会社をつぶす経営

 

会社が「つぶれる」ということは、銭足らずの状態に陥ることであり、つまり入ってくるお金より出て行くお金が多くなってしまい、会社の資金が底をついてしまう状態だということは、何度も述べてきました。会社を「つぶす」最後のトリガーは、間違いなくお金が不足することです。したがって、前回までは会社を財務的側面から観察する場合のポイントと、その内容の評価方法について述べてきました。そこに至る理由がいかなるものであったとしても、死にいく前に見せる兆候は、財務面に表れてくるからです。

しかし、出来れば重病になる前、いえ病気になってしまう前に、何とかそのような体質を読み取る方法を知りたいものです。人間でもヘビースモーカーであるとか、大酒の飲みであるとか、やはり人よりは病気になり易い要素を持ち合わせている人がいます。そのような人が必ず病気になるわけではありませんが、病気になる確率は間違いなく他の人よりは高いと言えるでしょう。会社についても、そのような目安となる要素があるのではないかと思われます。

一般に、景気が悪化して会社が「つぶれた」とよくいわれます。確かに、景気が悪くなって消費が冷え込めば、売上が減りお金の回転も鈍くなるでしょう。しかし、景気の変動が会社を「つぶす」大きな要因と言えるのでしょうか。ではなぜ同じような規模、同じような製品を扱っていながら、つぶれる会社とぶつれない会社があるのでしょうか。

 

経営判断

会社が「つぶれる」要因は、時代によって変化しています。わが国では、バブルの最盛期は「放漫経営」が、企業倒産要因のトップでした(これには、つぶれていない状態の更正法の適用を申請した会社や、和議申請をした会社も含まれています)。その後は徐々に「放漫経営」による倒産が減り、「販売不振」によって倒産する会社が増えています(1996年度では、「販売不振」による倒産は全体の52%)。

なぜ景気が良くなると放漫経営による破綻が増えるのでしょうか。景気が良い時は、手元に滞留した資金を、安易に不確実な投資へ転化させたり、必要以上に大がかりな設備投資を行うことによりかえって経営の悪化を引き起こす例が多くみられます。取引先が、自社ビルを建て替えたり、工場や設備を増設しているのを見て、「儲かっているのだ」等と安直に判断してはなりません。人員計画であっても、設備計画であっても、繁忙期の数字(必要人員数、必要生産高や売上高予測)を元に試算されたものは、景気が冷え込めば、余剰人員、余剰設備となって会社の経営を圧迫することになるからです。特に設備投資は、投下資本の回収に長い年月を要することから、慎重に行われるべきです。一般の家庭においても、ボーナスをあてにしてローンを組み住宅を購入したが、不景気でボーナスがカットされローンの返済が滞ったあげく、自己破産に至ったり、また住宅を手放したという話はよく聞かれます。住宅を売却してもローンが完済できず、ローンの返済が続いているというケースもあります。しかし、住宅であれば目減りすることはあっても、だいたいは売却が可能ですから、いくらかの資金を回収することはできるでしょうが、会社固有の設備や特殊な建物は、その会社にとっては生産を生み出す価値があっても、他の会社にとっては二束三文の場合が多く、そのまま売却して投下資本を回収するなどということは不可能に近いと思われます。工場などであれば、建物を撤去して更地にするなど、さらなる費用をかければ、土地代金だけは回収できるでしょうが、設備や機械類などの処分による資金回収は難しいでしょう。実は、大手企業の中には、景気の良い時には、かえって設備投資を控えているという会社もあるのです。一時の景気に踊らされない慎重な経営判断が、会社を「つぶして」しまうか、存続させるかの分かれ目になるのです。

 

2 危機管理体制

  これからの会社は、厳しい経済環境の変化にさらされながら、荒波の中でも生きながらえて行く力を自ら養わなければなりません。97年度の『中小企業白書』によりますと、今後の中小企業の経営戦略の展開の方向として@変化への即応性の向上、A優位性を持つ経営資源(経営力、技術力、人材)、B他企業との戦略的連携関係の構築が有効だとしています。そこで、ここではそれらを総括して危機管理体制の構築と呼んでみたいと思います。危機管理というと、どうしても災害などの純粋危険に対する管理のみと解釈されがちですが、会社をとりまく危機には、実にさまざまなものがあり(市場構造の変化、流通機構の変化、技術革新、人材の流出など)、これらに対して適切な経営管理を行ない、危険の統制、排除を行うことが、会社の危機管理なのです。

 ただし、危機管理体制が確立されているかどうかについては、なかなか外部からでは把握しにくいかもしれません。皆さんが取引先や契約先に対し「つぶれ」そうな会社かどうかを判断する際の評価基準としては、あまりにも漠然としていますし、実施にどのように評価すればよいかもわかりにくいものです。財務のような数値で表すことができないこれらの指標については、やはり日頃の観察が重要になってくるでしょう。景気が低迷しても積極経営を行っているか、優秀な人材を育て、技術力を高めるための努力を惜んではいないか、事業の無駄を省き生産性を向上させる努力を常に行なっているか、またそのような意識がトップから新入社員に至るまで、会社全体に浸透しているかなどが目安になります。経営姿勢は日頃のおつき合いの中からも伝わってくるはずです。

 会社が「つぶれる」ような事故が発生する前には、必ずそれを引き起こす経営上の問題点が内在しているということを認識することが大切でしょう。一般に経営破綻の原因の99%が、経営の失敗(不良経営)によるとされています。つまり、販売不振は景気のせいと片づけられるものではないのです。販売不振に至る経営上の危機を事前に回避する手だてを積極的にとっていたかどうかが問われているのです。

 

 さて、次回とその次の2回を利用して、最近の企業倒産の実態及びこのシリーズの総括をしてみたいと思います。会社が「ぶつれる」ことによる社会全体が被る経済的損失は決して少なくありません。皆さん自身がそのような被害を被らないためにも、このシリーズでの重要なポイントを復習してみたいと思います。