第5回目 会社の体力 その3

 

 前回は、収支適合性の把握などについて説明しました。収支適合性を完全に把握できれば会社が「つぶれる」かどうかを正確に予測することができます。なぜなら、収支適合している状態とは、入ってくるお金で出て行くお金をまかなうことができるということであり、つまり「銭足らず」の状態を回避できる状態をさしているからなのです。しかし会社の、つまり他(ひと)の会社の収支適合性を外部の者が把握することは、不可能に近いことです。それは、外部の者では知り得ない、その会社の資金の流入と流失のタイミングを詳細に知る必要があるからです。では、どうしたら良いのでしょうか。

 

1 タイミング

 会社の財務諸表のうち貸借対照表を見ると、貸付金や借入金などは短期と長期というように2つに分けて記載されています。また、長期と記載されているものには、長期前払費用や長期受取手形などといったものも見うけられます。そこでよく観察すると、短期のものは流動項目に、長期のものは固定項目として記載されているのがわかります。この流動項目、固定項目という分類は、短期間に支払わなければならない負債は短期間に現金化できる資産で、現金化に長期間かかる資産を購入するためには、返済の期限がない自己資本や返済期限の長い固定負債でまかなうことが望ましいという考え方が基になっている分類方法なのです。これは、流動資産と流動負債を比較し、また固定資産と固定負債を比較することにより、収支適合性を明らかすることを目的としているともいえます。

 しかし、実際の活動の中で発生する支払は、必ずしも資産が現金化されるまで待てくれるわけではありません。支払は待ったなしで日々やってくるものです。支払期日がもう1日遅ければ「つぶれ」なかった、という話をよく耳にします。また期の途中で、流動資産と流動負債の差額が1円しかない日があったとしても、期末の決済書を作る時点では、その差額は何千万にもなっているかもしれません。したがって1年以内に現金化できる資産が潤沢にあっても、その資産の全額が期末日に一括で現金化されるのであれば、各々の支払い時期には間に合わないことになります。つまり単純に決算書(貸借対照表)の流動資産と流動負債を比較しても本当の意味での収支適合性(タイミング)は把握できないこととなります。

 

2 流動比率の有用性

 よく財務分析の本に、支払能力を測定する指標として流動比率(流動資産÷流動負債)が有用であると記述されています。しかし能力は測れても、それを発揮できないのであれば、能力はないのと同じではないでしょうか。そこで流動比率の有用性を探ってみましょう。まず、実際社会において最も重要となる@支払のタイミングについては無視することとします。また、A会社には期末時点からその後、新たな収入や負債の蓄積がないと仮定しなければなりません。その場合に、現在手元にあるお金に、これから1年以内(一部1年以上も含む)に現金となって手元に回収されてくるべきお金を加えた総額が流動資産の金額であり、期末時点でまだ支払いが済んでおらず、かつ1年以内(一部1年以上も含む)に支払期限が到来する負債の総額が流動負債の金額となります。

 しかし、実際の継続企業の場合には前述の仮定条件(@およびA)は成り立ちません。翌期支払うべき金額は、期末までにまだ払い終えていな金額だけではありません。新たな仕入や物品購入への支払いなどが日々加算されているわけですし、日々の売上金もどんどん流入してくるわけです。したがって実際の支払いは、手元に入ってきたお金を、次々に一番支払期日の近いものに当てるということが実状のはずです。そして、そのタイミングが狂えば「銭足らず」の状態に陥ることもあるわけです。

 

3 会社の余力

 つまり会社の経済活動が、会計の仕組みのように1年間できちんと区切られ、1年ごとに会社をたたんでそれからまた1から始めるのであれば、決算書の流動比率を利用して支払能力をはかることに問題はないと思います。しかし実際には会社は経済活動を継続しており、会計の測定方式では、日々の支払いのタイミングまでははかることができないのです。これは外部者が会社の支払能力を測ろうとしても、そこには限界があり、真の力量を測ることができないことを意味しています。財務分析の本などにみられるような財務比率を利用した分析を鵜呑みにすることは、少々危険であるともいえるでしょう。なぜなら、会社は生き物であって、会社の活動は数値では表しきれない要素を沢山含んでいるからです。大切なのは、このような財務比率に盲目的にならないこと。また、会計数値の行間を読む能力を養うことにあると思います。

 また、体力に求められるのは、ぎりぎりの力ではなく、余力ではないでしょうか。フルマラソンを死ぬかもしれないぎりぎりの体力で走る人はいないと思います。フルマラソンを走るのだから、きっとあり余る程の体力のある人だ、という判断も危険です。会社が「つぶれる」ような会社かどうかを外部の者が判断するときには、いざという時の余力を把握しておくことの方が大切でしょう。逆に余力が全くなければ、いつ「つぶれて」もおかしくない会社ともいえるでしょう。

 体力のある会社とは、短期間に現金化できる資産を十分に持っている会社であるということは確かです。しかしそれが流動性の高い資産ばかりであれば、流入も流出も早くその量はつねに変動してしまっているわけです。そこで、短期間で現金化することはできるが、すぐに流失してしまうことのない資産を持っていれば、これは心強い限りです。そのような資産は、どうやって把握すればいいのでしょうか。決算書のどの部分を見ればよいのでしょうか。次回は、この余力について考えてみたいと思います。