会社が「つぶれる」話し

 

第1回目 「つぶれる」と「倒産」は違う?

 

 会社が「つぶれる」話しなど、自分には縁のない話しだとは思っていませんか。あるいは、皆さんの中には、保険契約先が「つぶれた」、また他の会社が「つぶれて」その影響で契約先の資金繰りが厳しくなったという話を耳にしたことがある、という方もいるかもしれません。会社が「つぶれる」という事態は、多くの経済的犠牲を社会に強いるものであり、現代のようにめまぐるしく経済環境が変化する中では、いつその渦に巻き込まれて自らが犠牲者になるとも限りません。しかし、社会の中で我々を取り巻く多くのリスクの中でも、会社が「つぶれる」という事態については、結果のみが語られ事前の情報が得られにくいのが現状です。そこで、この複雑な社会の中で自らを守るためには、起こりうる事象について少しでも理解を深め、出来る限りの事前策を講じておくことが必要です。会社が「つぶれる」とは、いったいどういう状態をさしていうのか、また考えうる影響、保険代理店として留意しておかなければならない点などについて、何度かにわけて解説していきたいと思います。

 会社が「つぶれる」という事態をさして「倒産した」という言葉がしばしば用いられています。では「倒産」という言葉は、どのような状態をさしているのでしょうか。最近のマスコミ報道でよく見られる「破綻」とはどう違うのでしょうか。実は「倒産」という言葉の厳格な定義はありません。なぜなら「倒産」という言葉は日常語であって、法律などに照らして定義された言葉ではないからです。無論日常語であっても、世間で広く認知されている定義があります。その定義では大きく分けて、企業が私的整理に入った状態、または法的整理に入った状態をさして倒産といっています。

 私的整理とは、@6カ月以内に2回の不渡りを出し銀行取引停止となったり、またA債権者会議により内整理に入った場合などをさしていうものです。これは任意整理ともいわれ、経営者側と債権者との間で任意に話し合い、会社の手元に残っている資産を分配し借金の整理を行います。日本の場合は、法的整理に比べ圧倒的に私的的整理が多いようです(平成7年の統計では負債総額1,000万円以上の倒産のうち87.4%が私的整理です(1))。これに対し法的整理とは、裁判所の関与と監督の下で会社の整理が行われるものです。具体的には、裁判所に対しB会社更生法の適用申請をした、C和議申請をした、D商法に基づく会社整理を申請した、E破産を申請した、またF特別清算を申請した場合をさして法的整理といっています。

 したがって通常は、上記の7つのいずれにも該当しない場合は、「倒産」したという表現は使われません。実は、東京協和信組、安全信組、コスモ信組、木津信組、兵庫銀行、太平洋銀行などの金融機関の場合は、上記のいずれにも該当しないため、「倒産」とせずに「破綻」したという表現を使っているのです。しかし一般的には、「倒産」という言葉と「破綻」という言葉は、ほぼ同意語のように捉らえられているのではないでしょうか。「つぶれる」という言葉のニュアンスの中には、定義された「倒産」と一般概念の「破綻」の両方の意味が含まれていると思われます。

 また、ここで定義された7つの倒産に該当する状況を観察すると、少し不自然な点に気がつきます。どうやら我々の感じる「つぶれた」という定義には、該当しない状況がいくつか含まれているのです。一つは、@銀行の取引停止となった場合です。手形に記載された決済すべき金額が、支払い銀行の当座預金口座に1円でも不足していれば、その手形は不渡りとなり、手形交換所は不渡り報告に振出人名を掲載して参加銀行に通知します。その掲載者が6カ月以内に2回目の不渡りを出すと、銀行取引停止処分を受けることとなります。この処分は、処分日から起算して2年間、当座取引と事実上の貸出取引が出来なくなるというものです。確かに、会社が「つぶれる」場合、この銀行取引停止処分がきっかけとなることがもっとも多いことは事実です。これは、手形取引の信用と秩序を守っている社会が、短期間に2回の不渡りを出した者に対しては、再建のチャンスを与えず、社会から一気に抹殺してしまおうとする力が働いているからだと思われます。しかし、考えてみてください。当座取引と貸出取引が出来なくなること、すなわち「つぶれた」とすることは性急過ぎやしないでしょうか?それが元で整理に入れば、これはまちがいなく「つぶれた」状態です。ところが法的整理に比べ弾力的対応が可能な私的整理では、債権者会議で会社再建の方向に進む場合もあり、まだ何の結論も出ていないこの時点で「つぶれた」と表現することは適切ではないような気がします。それよりも、不渡りを出したことですなわち「つぶれた」との情報が流れ、それが債権者の不安をかりたてて再建への道をとざしてしまうことが多いのではないでしょうか。

 もう一つ「つぶれた」と呼ぶには不自然だと思われる状況に、B会社更生法の適用申請及び、C和議申請をした会社の場合があります。マスコミでは、会社更生法の申請をした会社を「事実上倒産した」と報道します(ここで、事実上という表現がミソなのです)。しかし経営者がこれらの申請を行う主な目的は、経営が苦しくなった中で事業をさらに継続したいと願い、そのために債権者への債務の履行を留保してもらうことにあります。したがって、会社を「つぶす」ために行うものではなく「つぶさない」ための申請であって、この時点で「つぶれた」と表現することは適切ではないと思われます。事実、会社更生法の適用を受けた会社の中には、そのまま業務を続けそれまでと同じように製品を世の中に送り出している会社もあります。

 ここで、マスコミが使用するる「事実上」という表現にこだわってみたいと思います。つまり、どうやら上記に挙げた7つの状況に該当する「倒産」は、「事実上は」という意味で本当に「つぶれた」という意味ではないようなのです。「つぶれて」はいないが「つぶれた」と同じようなものだ、といったところでしょうか。しかし、これにはどうも納得がいきません。それは、実際には「つぶれて」もいないのに、あたかも「つぶれた」ように報道すること、そしてそれによって本当に「つぶれて」しまうことが多々あるだろうと思われるからです。したがってこのような報道を耳にする際には、社会で使用されている「倒産」という言葉と、我々が理解している会社が「つぶれた」という状態には隔たりがあるということをしっかりと理解しておく必要があります。そこで、まず会社が「つぶれた」という状態をはっきりと定義する必要がありそうです。次回は、この会社が「つぶれた」という状態についてより掘下げて考えてみることにしましょう。

 

(1) 帝国データバンク調べ